人が集まれば「なわばり」ができる。
病院内でもそれは同じ。
人間の集団心理の中に、そういう特徴があるそうだ。
数年前の話になるが、私が師長になりたての頃、夜間の「管理」に入らなければならなくなった。
当院では、師長になると、「夜間管理」という名称で「管理夜勤」が任せられる。
わかりやすく言うと、夜間帯に「看護部長の代わり」を務める役割を任される事になる。
とはいえ、業務内容は「クレーム対応」「緊急入院の調整」「病棟の急変時の応援調整」などイベントが起こったときに、業務が滞らないように調整する仕事である。
初めて夜間管理に入るとき、担当の『副看護部長』から説明があるのだが、
この説明が非常に難解で、ハッキリ言って「何が言いたいのか分からない」という説明であった。
「これ」とか「あれ」とか代名詞が多く、早口で的を得ない。
「よくこれで、副看護部長が務まるな・・・」と閉口したくらいである。
質問しても「何とかなるから。」である。
気合いで何とかなるなら、誰でも良い。
総合病院でこれなのだから、個人病院はもっとひどい状況ではないかとお察しする。
この説明はまずいと思い、自分で「管理マニュアル」なる物を作成した。
「夜間管理の流れ」や「パソコン操作の方法(入院登録や変更の方法など)」を20ページほどにまとめた。
自分の記憶が新しいうちに形に残しておきたかった。
私の後も後輩たちが師長になったとき、役に立つのではないかと考えて作成した。
まとまったファイルを、今「夜間管理」に入っている師長たちにもメールでファイルを送り、「良かったら活用してください」と虎の巻的な感じで提供した。
その後、多くの師長から「助かる」「ありがとう」と連絡を受け、気が利いた師長は「こういう内容もあるよ」と情報提供までしてくれた。
ここまでは良かった。
数日後、突然くだんの『副看護部長』から電話がかかってきた。
電話の内容は、「『夜間管理マニュアル』の内容は自分が話すから、勝手に配布されては困る」という趣旨であった。
要するに、「月に1回程度しか夜間管理に入らない よそ者が口出すな」という事であった。
アホな人はこれだから進化しない。
ここで一戦交える事もできたが、あえて引き下がることにした。
師長に送ったメールは、回収した。
「みんなに役に立つ物」が「組織で活用される」という訳ではない。
組織で活用されるのは、役職が上の物が許可した物である。
1つ良い勉強になった。
バカバカしいのだが、組織というのはそういう物である。
目に見えない「なわばり」があり、みんなそれを守るのに必死になっている。
「自分たちの立場」が大事なのだ。
結果的に、そのファイルは「名目上」お蔵入りになったが、数人の師長から「こっそり使うから」と要望され、今でも改訂されながら活用している。
そして、新しい師長から、毎回「連絡」が入る。
「メデさんが作成した「管理マニュアル」を頂きたいのですが・・・」と。
女世界の口コミはすごいものだと感心する。
私が何も言わなくても、誰かがきちんと引き継ぎを行っているのだ。
もちろん喜んで提供するが、条件が2つある。
・『副看護部長』には言わないこと
・業務時に気づいた事があれば共有したいので、情報を送ること
この条件を伝えてお渡しする。
なわばり争いは面倒だが、必ず起こる現象である。
巻き込まれたら無駄に争うより、一歩引いて自分たちのできることに注力した方が良い。
『負けるが勝ち』である。